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  • Kaz Hattori

パンはパンでも…



「パンはパンでも、食べられないパンは、な~んだ???」


日本の子どもたちが必ず一度は出会うと言っても過言ではない、有名ななぞなぞ。答えはもちろん「フライパン」ですが、このなぞなぞの前提となっているのが、日本の「パン」という言葉には複数の意味がある、という点です。


日本で通常「パン」と聞くと、食パンやフランスパン、あんパンなどの食べ物を連想することと思います。「パン」は、たしかに元は外来語で、ポルトガル語の"pão"やフランス語の"pain"が由来とされていますが、外国語を勉強した方なら、これが英語ではないということはご存じでしょう。もはや日本語として定着していることからも、「パン」が外国語だということすら知らない方も多いかも知れません。


一方、日本語の「パン」は英語では"bread"です。そして英語にも"pan"という単語がありますが、こちらは「フライパン」でおなじみの、平らな形の鍋を指します。


この画像のポスターを見てみると、まず"Pan Is Fun!"と書かれていますが、"is fun"とある以上、英文であることがわかります。ところがポスターにはたくさんの「パン」があり、どうやら日本語で言う「パン」を指しているようですね。


英語で"pan"は「フライパン」ですよね。つまりこの文は、英文としては「フライパンは楽しい」という意味となりますが、ポスターには「パン」つまり"bread"の写真があります。


ややこしい話で頭が痛くなりますが、つまり、英語ではない外国語を英文に混ぜてしまった結果、英文なのに英語ネイティブにはまったく意図が伝わらない、という状況が発生しているのです。


日本人が日本人だけを相手にしているのならば、別にこれで問題はないかも知れません。疑問に思う人がいたとしても、ポスターを見れば、ここでの"pan"は日本語の「パン」のことだということが伝わるし、"fun"は日本語風に発音すれば「パン」と韻を踏んでいるから、いかにも良くできたキャッチコピーのように見えるでしょう。


しかし問題なのは、「楽しい」という言葉の意味の解釈が、海外と日本では異なるという点です。


日本語の感覚では「パンは楽しい」という言葉を聞いても、例えば「パンを口に入れて、噛んでから飲み込むという一連の行為が楽しいのではなく、いろいろな種類のパンを見て、どれを選ぼうかと悩む時間が楽しい」のように自動的に解釈し、受け入れるでしょう。そしてこのポスターでも、おそらくそのようなことを指して"fun"という単語をあてはめたのかも知れません。


ところがネイティブが"Pan is fun."と聞いた時に思い浮かべるのは、「Panをいったいどうやって楽しむのか?」ということになるのです。


「パン」と"bread"の意味の違いがあるので整理すると、つまり、仮に"Bread is fun."と書かれていたとしても、「Breadは食べる物だけど、食べる以外の楽しみ方って何だ?何をするんだ?投げたり潰したりして遊ぶという意味なのか?」のように、頭の中で混乱が生じるのです。さらに"Pan is fun."を文字通りに読めば、「フライパンをラケット代わりにしてテニスでもするのか、それともたくさん並べてドラムスティックで叩くのか?」のように、"pan"を実際に使って楽しむ様子を想像するかも知れません。


日本には日本人だけがいるわけではありません。今や多くの外国人が日本で生活しています。キャッチコピーの作成など、英語を使ってなんらかのメッセージを発信する時は、外国人が読み手になるという状況を必ずシミュレートしなければなりません。そして同時に、誤解のないようにきちんと意味が伝わるメッセージにしなければ、メッセージとしての価値はありません。日本に住んでいて、日本人同士、日本語でコミュニケーションを取ることに慣れていると油断しがちですが、相手が日本人であれ外国人であれ、メッセージを伝えることの目的は同じです。

そのメッセージの向こう側にいるのは、日本人だけではないのです。


グローバライズコンサルティング合同会社では、英語圏での実際の感覚や「文化・習慣の違い」を踏まえて、海外事業やローカライズに関して長年の実績を持つプロのコンサルタントが的確にサポートします。お気軽にお問い合わせください。


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